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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)8383号 判決

原告

久保田隆三

ほか一名

被告

有限会社宮田工務店

ほか二名

主文

一  被告らは各自、原告久保田隆三に対し金四四〇万八七五一円原告佐々木光男に対し金二九万九三〇〇円およびこれらに対する昭和四六年一月七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告久保田隆三と被告らとの間に生じたものはこれを二分し、その一を同原告の、その余を被告らの各負担とし、原告佐々木光男と被告らとの間に生じたものはこれを七分し、その一を同原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告久保田隆三に対し金一〇五八万一六七六円、原告佐々木光男に対し金三四万九三〇〇円およびこれらに対する昭和四六年一一月七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二原告らの主張

一  (事故の発生)

原告らは左の交通事故でそれぞれ傷害を受けた。

(1)  日時 昭和四四年一二月九日午後六時頃

(2)  場所 横浜市金沢区富岡三〇七四番地先路上

(3)  被告車 普通貨物自動車(横浜四ぬ四五六二号)

運転者 被告会沢敬一(以下被告会沢という)

(4)  被害車 加害車に同乗していた原告両名

(5)  態様 被告車運転の被告会沢が右側より横断してきた歩行者を避けるため急に右にハンドルを切つたため、被告車が対向して直進してきた訴外籠谷勇の運転する車両に衝突した。

二  (責任原因)

被告らはそれぞれ次の理由により、原告らの後記受傷損害を賠償する責任がある。

(1)  被告有限会社宮田工務店(以下被告会社という)

被告会社は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任がある。

(2)  被告宮田四郎(以下被告宮田という)

被告会沢は被告会社の従業員でその業務の執行として被告車を運転中、後記の過失により本件事故を発生させたものであるところ、被告宮田は被告会社の代表取締役であり、被告会社に代わつて事業を監督する地位にあつたから、民法七一五条二項による責任がある。

(3)  被告会沢

被告会沢は前方注視義務および徐行義務を怠り、またハンドル・ブレーキ操作を誤まる過失により本件事故を発生させたから、民法七〇九条による責任がある。

三  (損害)

(一)  原告久保田隆三(以下原告久保田という)

原告久保田は本件事故により頭部打撲(脳挫傷)、下顎骨骨折、全身打撲の傷害を受け、このため金沢病院に昭和四四年一二月九日から同四五年一二月二五日まで入院し、その後も同病院に同四六年一月六日まで通院し、さらに東京医科大学病院に同四六年三月六日から同年八月九日まで通院して治療したが、なお後遺症のため苦痛を受けており、この後遺症は自賠法施行令別表後遺障害等級九級に相当する。

右受傷による損害の数額は次のとおりである。

(1) 治療費 金一万七〇八三円

東京医科大学病院に支払つたものである。

(2) 通院交通費 金二万五〇〇〇円

金沢病院および東京医科大学病院に通院のため出費した交通費である。

(3) 入院雑費 金一一万四三〇〇円

入院期間中一日三〇〇円の割合による。

(4) 休業損害 金一八五万〇六二五円

同原告は本件事故発生時月収金二四万円を得ていたところ、右受傷のため昭和四四年一二月九日から同四五年一二月二五日まで休業したから、その休業損害は二八八万円となるところ、このうち被告会社から金一〇二万九三七五円の支払を受けているのでこれを控除した金額である。

(5) 逸失利益 金五一七万四六六八円

事故発生時までの月収金二四万円。

障害等級第九級。労働能力喪失率三五パーセント(労働基準局通達昭和三二年七月二日付基発五五一号の労働能力喪失率表による。)

収益減少の継続期間六年。

中間利息控除はホフマン複式年別

(6) 慰藉料 金二五〇万円

(7) 弁護士費用 金九〇万円

着手金一〇万円。報酬金八〇万円。

これらの費用は被告らが同原告の損害を任意に弁済しないため、弁護士に本訴訟提起を委任したことにより生じた費用である。

(8) 損害の填補

同原告は自賠責任保険から後遺障害補償一三一万円の支払いを受けた。

(二)  原告佐々木

原告佐々木は本件事故により頭部外傷、顔面打撲、左鎖骨骨折、左第五中足骨骨折の傷害を受け、このため椿ケ丘医院に昭和四四年一二月九日から同四五年二月七日まで入院し、その後も岩手県下の病院に通院し治療した。

右受傷による損害の数額は次のとおりである。

(1) 入院雑費 金九三〇〇円

入院期間中一日三〇〇円の割合による。

(2) 慰藉料 金三〇万円

(3) 弁護士費用 金四万円

着手金一万円。報酬金三万円。

これらの費用は、被告らが同原告の損害を任意に弁済しないため、弁護士に本訴訟提起を委任したことにより生じた費用である。

四  (結論)

よつて、被告ら各自に対し、原告久保田は金一〇五八万一六七六円、原告佐々木は金三四万九三〇〇円およびこれらに対する本訴状送達の後である昭和四六年一一月七日から支払ずみに至るまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  (抗弁に対する答弁)

争う。

第三被告らの主張

一  (原告らの主張に対する認否)

原告の主張第一項の事実は認める。

同第二項(1)および(3)の事実は認める。同(2)の事実中被告会沢が被告会社の業務として被告車を運転中その過失によつて本件事故を発生させたことは認めるが、被告宮田が被告会社の代理監督者であることは争う。被告宮田は被告会社の代表取締役ではあるが、高令のため名義上の代表者に過ぎず、実質的に被用者の選任・監督に当つていない。

同第三項の事実中、原告らがその主張のごとき傷害を受けたことは認めるがその余は争う。

二  (抗弁)

原告久保田は被告会社の下請として、原告佐々木は原告久保田の手伝人として働いていたものであるところ、原告両名は、事故当日仕事を終えての帰り道、被告会沢運転の被告車に同乗して本件事故に遭つたものであるから、いわゆる好意同乗者として賠償額の算定につきこれを斟酌して相当の減額をすべきである。

第四証拠〔略〕

理由

一  (事故の発生および責任原因)

原告の主張第一項の事実(事故の発生)および同第二項(1)(3)の各事実(被告会社および被告会沢の責任原因)については、いずれも当事者間に争いがない。

被告宮田の責任原因につき、被告会沢が被告会社の従業員でその業務の執行として被告車を運転中にその過失により本件事故を発生させたことは当事者間に争いがないところ、被告宮田は被告会社の代理監督者であることを争うので判断するのに、〔証拠略〕によれば、被告会社は建築請負を業とする資本金五〇万円の有限会社で、実質上被告宮田の興した個人会社であること、役員は被告宮田とその妻のほか非常勤の監査役一名だけであること、従業員も現場監督者三名、運転手一名(被店会沢)、雑役一名にすぎず、受注した仕事は全て下請を使つて施行していたこと、被告宮田の長男宮田修一も現場監督の一人であるが、未だ被告会社の業務を総括する地位にはなかつたことがいずれも認められ、右事実によれば被告宮田は事実上被告会社に代つてその被用者の選任・監督に当つていたものと推認することができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

よつて、被告会社は自賠法第三条により、被告宮田は民法第七一五条第二項により、被告会沢は民法第七〇九条により、それぞれ本件事故により原告の蒙つた後記受傷損害を賠償する責任がある。

二  (損害)

(一)  原告久保田の損害

原告久保田が本件事故により頭部打撲(脳挫傷)、下顎骨骨折、全身打撲の傷害を負つたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、同原告は右受傷のため、昭和四四年一二月九日から昭和四五年一二月二三日まで金沢病院に入院し、その後昭和四六年一月二九日までの間に二回同病院に、更に同年八月九日までの間に二六回東京医科大学病院にそれぞれ通院して治療を受けたが、なお頭部外傷後遺症として中枢性前庭機能障害および自律神経失調症を残し、症状としてめまい、聴力低下、頭重感があつて、職業上高所作業ができない状態にあり、右後遺症は自賠法施行令別表後遺障害等級表九級一四号に該当することが認められる。

右受傷による損害の数額は以下のとおり認められる。

(1)  治療費 金一万七〇八三円

右甲第五号証により認められる。

(2)  通院交通費 金五六〇〇円

同原告は右認定のとおり金沢病院に二回、東京医科大学病院に二六回通院したところ、同原告本人の供述に照らし通院一回当り少なくとも二〇〇円の交通費を要したことは認めることができるから、その二八回分の右金額を認めることができる。右を超える立証はない。

(3)  入院雑費 金九万五〇〇〇円

同原告は右認定のとおり三八〇日間入院したところ、右認定の傷害の程度および入院期間の長さに鑑み一日平均二五〇円、合計右金額程度の雑費を要したものと認めるのが相当である。

(4)  休業損害 金五三万六三七八円

〔証拠略〕によると、同原告は本件事故当時建築大工職人として、原告佐々木を使用して専ら被告会社の下請の仕事に従事し、年間約三〇〇万円(〔証拠略〕によれば三二五万円余、〔証拠略〕によれば二九五万円余であり、これらを総合して概ね三〇〇万円程度と認める。)程度の請負代金を得ていたこと、これから工事用機械や道具類の損耗料、交通費、原告佐々木に給付する給与や衣食住賄料等の経費を支出し、その額は右請負代金の半額弱であることが認められ、右事実によれば事故当時の同原告の純収入額は税金の控除も考慮し、年額一五〇万円程度と認めるのが相当である。

そして右治療経過に鑑み同原告が事故翌日の昭和四四年一二月一〇日から昭和四五年一二月二五日まで一年一六日間稼働しえなかつたことは明らかであるから、その休業損害は一五六万五七五三円と算定されるところ、同原告が被告会社からこのうち一〇二万九三七五円の支払いを受けたことはその自認するところであるのでこれを控除すると、残額は五三万六三七八円である。

(5)  逸失利益 金二六六万四六九〇円

〔証拠略〕によると、同原告は前認定の後遺症のためその後も従前のように建築大工として稼働することができず、郷里の岩手県に帰つて現在修繕大工として稼働しているが、その収入は月額六万円程度に止つていることが認められ、右事実と前認定の後遺症の程度、その大工という職業に及ぼす影響度、労働基準局長通達昭三二・七・二基発五五一号による後遺障害九級に対する労働能力喪失率等に照らし、同原告がその後六年間にわたり右事故当時の収入を基準として三五パーセント程度の労働能力を喪失したことはこれを肯認することができる。そこでライプニツツ法により年五分の中間利息を控除してその逸失利益現価を求めると、左の算式のとおり二六六万四六九〇円と算定される。

一五〇万円×〇・三五×五・〇七五六=二六六万四六九〇円

(6)  慰藉料 金二〇〇万円

右認定の傷害の部位・程度、治療の経過、後遺症の程度その他諸般の事情に照らし右金額を相当と認める。

(7)  損害の填補

同原告が自賠責保険から後遺障害補償一三一万円を受領したことは同原告の自陳するところであるから、以上損害から控除する。

(8)  弁護士費用 金四〇万円

以上により同原告は被告ら各自に対し金四〇〇万八七五一円を請求しうべきところ、弁論の全趣旨により被告らがこれを任意に弁済しないため、同原告は原告ら訴訟代理人に本訴提起を委任し、同原告主張の弁護士費用を負担したことを認めうるが、右認容額と本件訴訟の程度に照らし、このうち本件交通事故による損害として被告らに請求しうべき金額は、金四〇万円をもつて相当と認める。

(二)  原告佐々木の損害

同原告が本件事故により頭部外傷、顔面打撲、左鎖骨骨折、左第五中足骨骨折の傷害を受けたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、同原告は右受傷のため、椿ケ丘医院に昭和四四年一二月九日から昭和四五年二月七日まで入院して治療を受けて治癒したことが認められる。

右受傷による損害の数額は以下のとおり認められる。

(1)  入院雑費 金九三〇〇円

同原告は右認定のとおり六一日間入院したところ、右認定の傷害の程度と入院期間に鑑み右金額程度の入院雑費を要したことは優に推認することができる。

(2)  慰藉料 金二六万円

右受傷の部位・程度・治療状況その他諸般の事情に照らし右金額をもつて相当と認める。

(3)  弁護士費用 金三万円

同原告は右のとおり被告ら各自に対し合計二六万九三〇〇円を請求しうべきところ、弁論の全趣旨により被告らが任意にその弁済をしないため同原告は原告ら訴訟代理人に本件訴訟提起を委任し、同原告主張の弁護士費用を負担したことを認めうることが、右認容額と本件訴訟の程度に照らし、このうち本件事故に基づく損害として被告らに請求しうべき金額は右金額をもつて相当と認める。

(三)  好意同乗による減額について

〔証拠略〕によれば、本件事故当時原告久保田は被告会社から建築工事を請負い、その使用人である原告佐々木と共にその工事現場の飯場に泊り込んで右工事に従事していたところ、事故当日被告会社から他の工事現場の緊急の手直し工事を依頼されたため、原告両名は、被告会社から遣わされた被告会社従業員被告会沢運転の被告車に同乗してその工事現場に赴き当日の仕事を終えた後、同じく被告車に同乗して前記の飯場に帰る途中、本件事故に遭遇したことが認められ、右同乗は主として被告会社の都合によるものであるから、右事情が賠償額を減額すべき事由に当らないことはいうまでもない。他に賠償額を減額するのを相当とする事由は認められない。

三  (結論)

以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告久保田において金四四〇万八七五一円、同佐々木において金二九万九三〇〇円およびこれらに対する訴状送達の後であること訴訟上明らかな昭和四六年一一月七日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度でそれぞれ理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浜崎恭生)

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